ハーグ条約実施法成立

2013-06-15

6月12日,ハーグ条約実施法が国会で成立いたしました。法律の正式名称は,「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」といいます。ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事面に関する法律)は1983年に発効された条約ですので,日本は加盟までになんと30年かかったことになります。

このハーグ条約,具体的には何を定めている条約かというと,一言でいえば,不法な連れ去り・不法な留置がされた場合において子を常居所を有していた国に返還する要件と手続を定めているものです。

今回成立したハーグ条約実施法は,日本国のハーグ条約締結に伴い,ハーグ条約の的確な実施を確保するために定められたもので,「子をその常居所を有していた国に迅速に返還するために必要な裁判手続等を定める」ことを目的として制定されることが,法律案の提出理由として明記されています。

ハーグ条約実施法の内容を少し見てみましょう。

実施法は,子の返還,子との面会交流について,外務大臣に対する援助申請を規定するとともに,この返還に関する裁判手続をも規定しています。

子の返還についての外務大臣に対する援助申請は,①条約締結国である外国にいた子供が日本に連れ去られてしまった場合に,外国にいる親が日本からの子どもの返還を実現するための援助を求める「外国返還援助」と,逆に,②日本にいた子どもが外国に連れ去られてしまった場合に,日本にいる親が外国からの子どもの実現するための援助を求める「日本国返還援助」の二つがあります。

いずれの援助申請も,申請書は日本語又は英語で記載することが求められていますが,外務省に提出する文書なのですから,職員は語学堪能でしょうし,もっと対応言語の数は増やした方がいいと思います。

子どもとの面会交流を実現するための援助を求める面会交流援助も,返還援助と同様に,日本国面会交流援助と,外国面会交流援助の二つがあります。

今回のハーグ条約実施法成立の報道を見ると,子の強制引渡し,裁判手続の面が多く記事になっているように個人的には感じますが,実務上重要なのは,上述の外務大臣の援助がどの程度機能するかだと思います。小さな子供は極めて環境順応性が高いですから,連れ去られた先の異国の生活にも大人より早く順応します。そのため,連れ去りから返還までのスピード感が勝負という面があります。また,裁判所の決定により強制的に引渡しを行うことは,子の福祉を考えた場合,望ましい方法とは言えないことが多いかと思います。

というわけで,できれば外務省の援助により,迅速に問題が解決できる方が多くの場合望ましいのではないかと個人的には思うわけです。実施法9条は,(合意による子の返還等の促進)という見出しを付けた上で,次のように規定しています。

「外務大臣は,外国返還援助決定をした場合には,…子の返還又は申請者との面会その他の交流を申請者及び申請に係る子を監護している者の合意により実現するため,これらの者の間の協議のあっせんその他の必要な措置をとることができる。」

協議のあっせん等が具体的にどのように行われるのか,今後の運用の在り方が注目されますが,ぜひ,実効的なものを構築していってもらいたいですね。期待します。

外務大臣への援助申請によっても,日本に連れ去られた子どもの返還が実現しない場合,外国にいる親は,家庭裁判所にこの返還を命ずる決定を求める申し立てをすることになります。実施法では,東京家裁又は大阪家裁が管轄裁判所と定められています。

実施法28条は,裁判所が,原則として返還決定を出してはならない返還拒否事由を列挙しています。そのうちの一つとして,以下の規定があります。

「子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において,子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。」

子の意思が尊重されるわけですが,先ほど述べたように,小さな子供は環境順応性が高いですから,新しい環境にもすぐなじむ可能性があるわけで,そのあたりをも考慮して,この要件をどのように具体的に事件に適用するのか,注目されるところです。

子の返還申立事件が係属したにもかかわらず,申立てられた当事者が,子を連れてさらに海外に出国することが自由にできるとしたら,子の返還を命ずる裁判所の決定は,絵に描いた餅になってしまいます。

そこで,実施法には,出国禁止命令という制度を設け,子の返還申立事件の当事者が子を日本国外に出国させるおそれがあるときは,裁判所は出国禁止命令を出すことができ,また,パスポートを外務大臣へ提出するよう命じることもできる制度が設けられています。

また,実施法は,子の返還の強制執行についても,規定を設けています。この返還の強制執行は,間接強制前置主義をとり,間接強制を命ずる決定が確定した日から2週間を経過しないと,子の返還の代替執行の申立てはできないと規定されました。

さらに,実施法は,執行官は,監護親による子の監護を解くために必要な行為をすることができるが,それは,子が監護親と共にいる場合に限ると規定しました。実施法は,両親が国内間にいる場合の子の引渡し事件には当然適用はありませんが,子の引渡し方法,執行官の対応については,国内事件の実務にも影響を与えるかもしれませんね。

ところで,このブログを書くにあたり,法務省が国会に提出した法案等の4点セット(法律案,理由,法律案要綱,新旧対照条文)を見ていましたら,法律案要綱47ページ後ろから2行目に誤記を見つけてしまいました。私のブログは誤記だらけかもしれませんが,法案4点セットにタイポがあるのはまずいですね。あと,法律案の96条が,民訴の247条を準用していますが,これはなぜだか,私の頭では理解できませんでした。もしかしたら,誤りかもしれません。

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(hy)

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