健康増進アプリと薬機法

2018-11-08

スマートフォンのアプリにはとても便利なものがたくさんあります。歩数を計測するアプリは,日々の歩数を記録しますが,利用者の身長や体重,一歩当りの長さなどの情報を入力すれば,一日の歩行距離も出てきます。ウェアラブル端末で心拍数を記録しスマホに転送して,運動の強度や消費カロリーを算出してくれるものもあるようです。さらには,日々の食事をカメラに撮ることで,その食事のカロリーや栄養バランスを判定し,食生活についてのアドバイスをするようなアプリも可能でしょう。

このようなアプリは一般に「健康管理」アプリとか,「健康増進」アプリなどと呼ばれているようです。しかし,運動や食生活を見直すことは成人病予防にもなるでしょうから,「健康診断」アプリとか「病気予防」アプリなどといってもよさそうに思えます。けれどもそのような名称がつけられることはありません。なぜでしょうか。

東京都の国立国際医療研究センターは,糖尿病の発症リスク予測ソフトを開発し,ホームページに公開したところ,厚生労働省から問題がある旨の指摘を受けたというニュースが2・3日前に報じられていました。さきほど(平成30年11月8日)当該ソフトにアクセスしたら,「ただいま,一時的に公開を見合わせております。ご迷惑をおかけし申し訳ありません。」と表示されていました。

報道によれば,このソフトは,身長,体重,腹囲,血圧,喫煙習慣などを入力すると,糖尿病の3年以内の発症リスクが予測できるというもののようです。3万人のデータをもとにAIを活用して開発したとのことで,発症リスクは「%」で示され,「あなたへのアドバイス」として「糖尿病予備軍に該当」などと表示されるようです。厚生労働省は,このソフトが法律に抵触する可能性があると指摘したようです。

ところで皆さんは薬機法という法律をご存知でしょうか。かつての薬事法が改正されたもので,正式名称は「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」といいます。この法律によれば,例えば,医療機器を製造(設計を含みます。)販売するには,厚生労働大臣の承認が必要とされています。そうすると,何が「医療機器」に該当するかが問題となりますが,薬機法によれば,「医療機器」とは,疾病の診断,治療,若しくは予防に使用されること,又は身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等と定義され,具体的には,政令に列挙されています。

そして,政令では,「疾病診断用プログラム」「疾病治療用プログラム」「疾病予防用プログラム」が「医療機器」に該当するとされています。また,薬機法では,医療機器プログラムを電気通信回線を通じて提供することも「製造販売」に含まれるとされているので,結論としては,これら「疾病診断用プログラム」等を設計したり,アプリとして利用させたりするためには,厚生労働大臣の承認が必要とされるわけです。

もっとも,何をもって「診断」「治療」「予防」に該当するかはなかなか難しい問題ですよね。この点について,厚生労働省は,薬事法が薬機法に改正された直後の平成26年11月に「プログラムの医療機器への該当性に関する基本的な考え方について」という通知を出しています。この通知では,プログラム医療機器について,「汎用コンピュータや携帯情報端末等にインストールされた有体物の状態で人の疾病の診断,治療若しくは予防に使用されること又は人の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされているもの」と整理しています。その上で,医療機器に該当するプログラムと該当しないプログラムの具体例をいくつか挙げているのが,この通知の特徴です。

医療機器に該当するプログラムの例としては,例えば,「医療機器で得られたデータを加工・処理し,診断又は治療に用いるための指標,画像,グラフ等を作成するプログラム」や「治療計画・方法の決定を支援するためのプログラム(シミュレーションを含む)」などが挙げられています。

他方,医療機器プログラムに該当しないものとしては,「日常的な健康管理のため,個人の健康状態を示す計測値(体重,血圧,心拍数,血糖値等)を表示,転送,保管するプログラム」や「携帯情報端末内蔵のセンサ等を利用して個人の健康情報(歩数等)を検知し,健康増進や体力向上を目的として生活改善メニューの提示や実施状況に応じたアドバイスを行うプログラム」などが例示されています。

ここで,ようやく「健康管理」「健康増進」という冒頭のキーワードが出てきました。厚生労働省の通知が一つの根拠となって「健康増進プログラム」などという言い方が普及しているように思います。他方,「診断」「治療」「予防」などという言葉は,薬機法の観点から使用すべきではないということでしょう。もちろん,プログラムの中身が疾病の診断に使用されるものであれば,いくら「健康増進」という名称を使用しても薬機法に抵触することになります。

アプリケーションを開発するエンジニアの方などは,この点は注意する必要があるでしょう。また,保険会社など膨大な健康情報を有している企業などは「健康増進」アプリの開発を考えるかもしれませんが,その内容が「診断」「治療」「予防」にならないかどうか,十分な検討が必要になると思います。

 

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(hy)

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