弁護士法に基づく照会と報告義務

2017-10-05

弁護士法23条の2は,「報告の請求」として,次のように規定しています。

「弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」

例えば,交差点での交通事故に基づく損害賠償請求事件において,信号が赤から青に変わったタイミングについて双方当事者の主張が対立している場合,弁護士法照会制度を利用して警視庁交通部の担当課に信号機の信号サイクルについて照会するということが考えられます。

この照会制度について,近時,高裁にて興味深い判決が出されました(名古屋高裁平成29年6月30日判決)。

このケースは,ある人物宛ての郵便物について,転居届が提出されているか否か,転居届の届出年月日,新住所,新住所の電話番号について,郵便事業株式会社(当時の商号。現商号は日本郵便株式会社)に対して愛知県弁護士会が照会したところ,郵便事業は照会に応じないと回答したというものです。

この判決でまず目につくのは,主文で,照会についての報告義務がある事の確認請求を認めていることです。

主文第1項は次のように述べています。
「被控訴人(引用者注:日本郵便のことです。)が,弁護士法23条の2第2項の規定に基づき控訴人(引用者注:弁護士会のことです。)がした別紙の照会のうち,〇〇(引用者注:特定の人物の個人名です。)宛の郵便物についての転居届の提出の有無,転居届の届出年月日及び転居届記載の新住所(居所)について,控訴人に対し報告する義務があることを確認する。」

この点に関し,この判決は,次のように述べた上で,本件に関し,確認の利益は認められるとしています。

「23条照会は、依頼者の私益を図る制度ではなく、事件を適正に解決することにより国民の権利を実現し、弁護士の受任事件が訴訟事件となった場合には、当事者の立場から裁判所の行う真実の発見と公正な判断に寄与する結果をもたらすという公益を図る制度として理解されるべきであるから、23条照会を受けた公務所又は公私の団体は、照会事項を報告すべき法的義務があるとともに、23条照会が公法の性質を有する弁護士法により認められた公益を図る制度であることに照らせば、その義務は公法上の義務であると解される。」

もちろん,照会先において,照会事項を報告すべき法的義務があるからといって,照会事項全てについて無条件で報告しなければならないわけではありません。

本判決は,「23条照会については、照会先に対し全ての照会事項について必ず報告する義務を負わせるものではなく、照会先において、報告をしないことについて正当な理由があるときは、その全部又は一部について報告を拒絶することが許されると解される。」と述べています。

それでは,どのような場合に報告しない「正当な理由」が認められるのでしょうか。

実際,日本郵便側は,転居届に係る情報は,憲法21条2項の「通信の秘密」,郵便法8条の「信書の秘密」「守秘義務」にあたるなどと主張し,「正当な理由」があると主張していました。

この点,本判決は次のように述べています。「被控訴人は、郵便法8条2項の守秘義務が、憲法21条2項後段を受けて定められていることを殊更に強調するが、国民の権利の実現や司法制度の適正な運営もまた、憲法上の要請にほかならない。したがって、報告を拒絶する正当な理由があるか否かについては、照会事項ごとに、これを報告することによって生ずる不利益と報告を拒絶することによって犠牲となる利益との比較衡量により決せられるべきである。」

弁護士会照会については,どういう場合に認められるかという質問を受けることも多いのですが,抽象的に一概に決めることはできず,本判決の示すとおり,個別具体的な事例における,慎重な利益衡量によって決せられるというほかはないでしょう。

現に,本判決においても,転居届が提出されているか否か,転居届の届出年月日,新住所については,報告義務有としましたが,新住所の電話番号については,電話番号を知る利益は日本郵便の守秘義務に優先させるのは相当でないとして,報告義務は及ばないと判示しました。

http://yamato-law-accounting.com/

(hy)

Copyright(c) 2012 やまと法律会計事務所 All Rights Reserved.