民法(債権関係)の改正に関する中間試案

2013-02-27

法制審議会民法(債権関係)部会が,民法(債権関係)の改正に関する中間試案を取りまとめたとのニュースが,昨日,今日と報じられました。新聞各紙のみならず,NHKの手話ニュースなどテレビニュースでも報じられていましたので,関心の高さというものがうかがえました。

民法(債権関係)の改正については,法制審議会において,3つのステージで議論が勧められています。第1ステージは,論点整理ということで,一昨年の5月に中間的な論点整理が公表されています。

第2ステージは,中間試案に向けての審議ということで,昨日,中間試案が出されたわけです。

今後は,中間試案が,パブリックコメント手続きにかけられ,それを踏まえて,第3ステージの改正要綱案の取りまとめに向けての審議が始まります。

というわけで,改正作業はまだ,第2ステージを終わった段階にすぎず,この段階で中間試案の細かい内容をあれこれつついても,法務省幹部あたりからは,「審議・議論はまだまだ続くんだよ!」とお叱りを受けるかもしれませんが,ニュースなどでも報じられていることですし,報道で取り上げられていた各論点について,いくつかふれてみたいと思います。

まず,中間試案では,職業別の短期消滅時効の廃止という提言をしています。

一般に,債権は10年の消滅時効にかかる,商事債権なら5年の時効にかかるということは,比較的広く知られていることかと思います。

民法は,この一般的な時効期間の特則として,職業別の細かい区分に基づき,3年,2年,1年という短期の時効期間を定めています。

例えば,弁護士や公証人の報酬債権は2年の時効で消滅します。

医師や薬剤師の診療・調剤に関する債権は3年で時効消滅します。

工事の設計・施工・管理業者の債権も3年です。

生産者,卸売商,小売商が売却した産物・商品の代価に係る債権は2年の時効にかかります。

教育を行う者が生徒の教育について有する債権も2年です。

演芸を業とする者の報酬債権は1年。

運送賃も1年。

旅館,料理店,飲食店の種伯領・飲食料も1年です。

最後のやつは,「飲み屋のツケは1年で踏み倒せる。」とちまたでいわれていることの法的根拠ということですね。

これらの職業に関する債権が,なぜ,短期の消滅時効にかかるのか,それを合理的に説明することはできないでしょう。それに,適用範囲も文字どおり捉えるとかなり広いですね。「生産者,卸売商,小売商が売却した産物・商品の代価に係る債権は2年」という規定は一般の商取引のかなりの部分をカバーすると思われますので,「商事債権は5年の時効」と考えていたら,とんだ落とし穴にはまる可能性もあります。

というわけで,これら職業別短期消滅時効の規定は削除するというのが中間試案の考え方です。

次に,保証人保護の方策の拡充について,中間試案は引き続き検討することとしています。保証人が個人である場合,想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ,生活の破綻に追い込まれるようなケースを想定して,個人保証人を守るべきことが示されています。

具体的には,貸金等根保証契約や,債務者が事業者である貸金等債務を主債務とする保証契約であって,保証人が個人であるものについて,保証人が主たる債務者のいわゆる経営者であるものを除き,無効とするかどうかについて,引き続き検討するとされています。

中小企業などが金融機関や貸金業者から借入をする場合,代表者が個人保証をするというのが通例となっていますので,「いわゆる経営者であるものを除き」という点が,今後の審議の争点になるように思われます。貸す側,借りる側から,いろいろな意見が出されるでしょう。借りる側からしても,「経営者が個人保証するからこそ銀行は金を貸してくれるのであって,経営者の個人保証を法律で禁止したら,金を貸してくれなくなってしまうのではないか?」という疑問が提起されることも十分考えられます。

加えて,保証人保護の方策の拡充として,契約締結時の説明義務や情報提供義務を明記し,それを怠った場合は,保証人が保証契約を取消すことができるという制度についても,引き続き検討することとされています。

約款についても,多くの新聞がふれていました。中間試案では,約款に関する規定を民法に新たに創設することについて今後議論をすることとしています。

約款について,中間試案は,多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であると定義しています。例えば,運送約款など読むことなしに,私たちは日常,電車に乗ったりバスに乗ったりしています。しかし,私的自治の原則が支配する民法の世界では,当事者が合意していない契約条項が当事者を拘束するということは本来ないはずであって,なぜ読んでもいない約款に我々は拘束されるのかという点については,法律上明らかではありませんでした。そこで,中間試案では,個別の合意がなくても約款が契約内容となる根拠規定をもうけようとしています。

約款というのは,知らなくても内容に拘束されるという点では法律に似ています。しかしあくまで当事者の契約内容を構成するものなので,「合意」という要素を全く無視しては,約款の拘束力を説明できないでしょう。いくら民法に,「約款は拘束力がある。」と規定したところで,それはあくまで形式論にすぎず,なぜ約款に拘束されるのかという実質的理由は解明されません。当事者が多数であることからくる画一的処理の要請と,内容が拘束される当事者にとって一方的に不利益ではないことが(例えば所轄官庁の許認可等により)公的に担保されているという,一種のパターナリズムによって私的自治が修正されているのだと考えるのが,一番の理由であると個人的には思いますが,学者によっては考え方はいろいろでしょう。

いずれにせよ,私的自治の支配する民法の中に約款論を織り込むことについては,十分な議論が尽くされるべきでしょう。

中間試案の取りまとめにより,民法(債権関係)の改正作業は第3ステージに入るわけですが,その前に,この中間試案に対して,どのような意見が国民から寄せられるのか,興味がありますね。

http://yamato-law-accounting.com/

(hy)

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