自筆証書遺言保管制度

2018-03-02

法務大臣の諮問を受けた法務省の法制審議会民法(相続関係)部会は,民法(相続関係)等の改正について平成27年4月より検討を重ねてきましたが,平成30年1月16日,「民法(相続関係)等の改正に関する要綱案」を決定し,法務大臣に答申しました。
政府は,この要綱案を元に民法(相続関係)等の改正案を閣議決定し,国会に提出することになります。

民法の相続関係の大幅な見直しは,配偶者の法定相続分の引き上げや,寄与分制度を創設した昭和55年改正以来約40年ぶりとなります。

今回の要綱案は,一方配偶者が亡くなった場合の他方配偶者の居住権を保護するための方策,遺産分割に関する見直し,遺言制度に関する見直し,遺留分制度に関する見直し,相続の効力(権利義務の承継等)に関する見直し,相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(特別寄与者)など非常に多岐にわたっています。

その中で,自筆証書遺言の保管制度の創設が盛り込まれておりますので,ここで取り上げたいと思います。

民法が認めている普通の方式による遺言の種類は,自筆証書,公正証書及び秘密証書の3つです。
自筆証書遺言は,誰にも知られずに作成できるという,一番手軽な遺言の作成方式ですが,他方で,遺言書が発見されない危険性や,偽造・変造される危険性,遺言書の紛失や他人による隠匿・破棄の危険性などがあると言われています。
公正証書遺言によれば,これらのリスクは極めて軽減できますが,逆に,費用が比較的かかることや公証役場に赴かなければならないことなどが公正証書遺言のデメリットとして挙げられます。

今回の要綱案では,自筆証書遺言の方式緩和(財産目録は自書する必要なし。)と合わせて自筆証書遺言保管制度を打ち出し,自筆証書遺言の利用促進を企図しているように思えます。
ただ,これには別の見方もできるように思います。自筆証書遺言は偽造・変造の危険性があるため,例えば,銀行実務では極めて慎重に取り扱われます。自筆証書遺言について保管制度ができれば,そういったリスクはある程度は軽減できます。つまり,いままでのいわば「裸の」自筆証書遺言を,公的機関が保管する自筆証書遺言に移行することを企図しているようにも思えるのです。
現に,自筆証書遺言保管制度創設は,銀行サイドの意向が強く反映されているようで,法制審議会のある委員(某メガバンク)も「第5の制度(引用者注:自筆証書遺言保管制度を指す。)の設計については,私どもからも要望したところということもございますけれども,例えばご検討いただいた保管する際の遺言の方式の審査とかのチェックとか,自筆証書の遺言の撤回について,何らかの規律が入ればよいのかなとは思ってはおりました。」などと発言しています。

さて,自筆証書遺言保管制度の骨子は以下のとおりです。

遺言者は,自らが法務局に出頭して,自筆証書遺言の保管を申請できる。

法務局は,遺言の方式の適合性を外形的に確認する。

法務局は,遺言書を保管し,かつ遺言書の画面情報をスキャンして画像情報化して保管する。

遺言者は,遺言書の返還・閲覧を請求することができる。

相続人や受遺者は,遺言者の死亡後,保管された遺言の閲覧や遺言画像情報の証明書の交付を法務局に請求しうる。

自筆証書遺言のメリットの一つは,内容及び存在自体の秘匿性ですが,保管制度の下では,遺言書がスキャンされます。つまり,遺言書の内容は法務局の職員に見られるわけで,その点で抵抗がある遺言者がいるかもしれません。
要綱案では,「遺言書(無封のものに限る。)」とされていますので,封をしたままの自筆証書遺言をあずけることはできません。

要綱案では,「法務局の事務官が,当該遺言の民法第968条の定める方式への適合性を外形的に確認し」と書かれています。
民法968条というのは自筆証書遺言の方式要件を定めた規定で,方式を満たさない遺言は無効とされます。これを法務局の職員がどこまでチェックするのでしょうか。明白な誤りは指摘してくれるのでしょうが,細かい点まではたしてチェックしてくれるのか。

法務局で受領され保管されたのだから,遺言者としては「不備はない!」と考えるでしょうが,仮に方式違背があった場合,遺言書は無効になってしまい(しかもそれが発覚するのは多くは遺言者の死後でしょう。),それは遺言者本人の落ち度であって,法務局に責めを負わせることはできないのでしょう。
要綱案の「外形的に確認」という表現はこれらの事情を非常に微妙に表現しているように思えます。

遺言者は,保管してもらっている遺言書の返還を求めることもできます。これに関連して遺言の撤回との関係が問題となります。
遺言の撤回は原則自由ですが,保管制度を利用した遺言を撤回する場合にはどうするのか,法制審議会でも議論があったようです。

一旦保管された遺言を撤回する場合には保管された遺言の取り戻しを義務付けるべきという意見もあったようですが,要綱案では言及がないので,そのような考えはとらなかったということです。
撤回をしたからといって保管されている遺言を取り戻す義務はなく,また,過去の遺言が保管されたままで,後日,別の内容の遺言を作成し,それについては保管を申請しないこともありえます。
保管申請には遺言者自らが法務局に出頭する必要がありますが,出頭が面倒と考えたり,高齢や病気などのため出頭できない状態で遺言を書き換えたいという場合もあるでしょう。

つまり,自筆証書保管制度は,ある遺言者についての,その時点で有効である唯一の自筆証書遺言が法務局に保管されているということを担保するものではなく,そのようなことを企図してもいないということです。自筆証書遺言という簡明で自由な制度の維持を前提としての保管制度ですので,その点はいたしかたないでしょう。

この保管制度がどの程度利用されるのかは分かりませんが,他方,システムの費用は相当かかると思います。保管された遺言画像を全国の法務局からアクセスできるようにし,また,遺言者の戸籍情報にもリンクさせる必要があるように思います。仮に,保管制度について利用可能な全国の法務局の数が制限されるのであれば,利用は伸びないでしょう。

あと,利用者として気になるのは法務局に支払う手数料の額です。公正証書遺言の公証人手数料よりは格安でしょうが,手数料がいくらくらいであれば保管制度を利用したいと皆さんは思いますか?

 

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(hy)

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