裁判官弾劾裁判所公判傍聴記

2013-04-11

昨日,裁判官弾劾裁判所の罷免訴追事件(平成24年(訴)第1号)の第2回公判(判決公判)を傍聴してきました。弾劾裁判所の事件は極めて少ないので,貴重な経験になるかと思い,傍聴してきた次第です。

事件の内容については,すでに,多数報道されているので,ご存知の方が多いと思います。大阪地裁の判事補が出勤途中の電車内で,女性のスカートの中を携帯電話で撮影し,いわゆる迷惑防止条例違反容疑で現行犯逮捕され,大阪簡裁で罰金50万円の刑を受けたというものです。

憲法64条1項は,「国会は,罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため,両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。」と規定しています。憲法上,高度な身分保障が認められる裁判官には,懲戒免職といった制度はありません。憲法78条本文は,「裁判官は,裁判により,心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては,公の弾劾によらなければ罷免されない。」と規定しています。この,「公の弾劾」にあたるのが,国会による弾劾裁判ということになります。

裁判官弾劾法は,「職務の内外を問わず,裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき。」を罷免事由として挙げています。したがって,上記の盗撮行為が「非行」に該当するか否かが弾劾裁判所により審理され,昨日判決が出たというわけです。

弾劾裁判所の公判の傍聴も,裁判所の事件の傍聴と同じように簡単にできるのかと考えておりましたが,ずいぶん様相は違っておりました。まず,傍聴するためには,事前にメールで希望を出し,抽選に当たる必要があります。
当日は,弾劾裁判所に赴き(参議院第二別館南棟です。),抽選に当たった旨を告げ,身分証明書を見せ,初めて傍聴券が渡されます。首からかけろと指示されました。そして,カバンの中身のチェックと身体のチェックをうけ(空港のあれと同じです。),クリアすると,やっと建物内に入れます。
建物内に入っても,自由な行動は許されず,傍聴人8人ごとに係員によりエレベーター内に誘導され,9階の法廷まで行きます。そこで,貴重品を除いて鞄を預け,法廷の傍聴席にはいれます。トイレ等の用事でいったん傍聴席から退出するときは,いちいち係員に告げる必要がありました。一般の裁判の傍聴と比べ,ずいぶん厳重です。

法廷の感じは,最高裁の大法廷をうーんと小さくした感じです。裁判官(正式には裁判員というようです。)は14名。傍聴席から向かって右側に検察官役の訴追委員の席があり,左側が弁護人席になっています。傍聴席は,左右に分かれ,左側はプレス専用で,椅子の背には,「NHK」とか「○○テレビ」とか一席ごとに記載されたカバーがかかっていました。我々一般傍聴人は右側の席へ誘導されました。

判決公判は14時30分開始でしたが,一般傍聴人が席に誘導されたのが13時20分頃。開始までたっぷり1時間待たされました。職員も,「まだたっぷり時間があります。」と告げていました。普段読んだことのない裁判官弾劾法のコピーを持参していたので,それを読んで時間をつぶそうとしましたが,わずか44か条の法律なので,すぐに読み終え,ついうとうとと…。

裁判官弾劾法には,「免官の留保」という規定があって,「罷免の訴追を受けた裁判官は,本人が免官を願い出た場合でも,弾劾裁判所の終局判決があるまでは,その免官を行う権限を有するものにおいてこれを免ずることができない。」とされています。今回の大阪地裁の判事補も,免官を願い出たとニュースで報じられていましたが,最高裁はこの規定により留保したのでしょう。

14時20分過ぎに,検察官役の訴追委員である国会議員7名が入ってきました。その後ろから,別の3名が入ってきて,訴追委員の後ろの席に座りました。私の見間違いでなければ,うち一人は裁判官のバッジをつけていたような気がしました。最高裁の関係者なのでしょうか。この事件は,最高裁が訴追請求した事件ですが,そうであっても,訴追委員の後ろに最高裁関係者が座るのは,少々奇妙に感じました。

弁護人5名が入ったあと,しばらくして,裁判員14名が入場。プレスによる写真撮影が終了したのち,被訴追者の華井判事補が入ってきました。

14時30分,裁判長の谷川参議院議員が平成24年(訴)第1号罷免訴追事件第2回公判の開始を宣言しました。

「被訴追者は前へ」と促したのち,判決の宣告が始まりました。

「主文,被訴追者を罷免する。」

被訴追者の表情は,私の位置からはうかがい知ることはできません。

理由は長くなるので被訴追者に着席を促した後で,谷川裁判長の朗読が始まりました。

判決理由の中では,携帯電話による盗撮行為が約1年半にわたって20回程度なされていたことが示されていました。しかも,静止画を撮影するとシャッター音でばれてしまうので,事前に動画撮影のスイッチを入れ,女性に近づいて撮影し,撮影の際にはライトの部分を指で押さえて撮影が発覚しないようにしていたということにも触れられていました。

その上で,裁判官は,国民から信頼され尊敬を受けるべき存在であり,裁判官としての地位自体に内在する倫理規範として,そのような国民の信頼と尊敬を保持すべき義務が存在するのであって,その義務に違反することが,裁判官弾劾法が罷免事由として規定する「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」に該当すると,非行の異議についての一般論を述べました。

そして,本件の盗撮行為は,「非行」に該当し,罷免事由に当たると結論付けました。

本件で,弁護人は,①本件の盗撮行為は条例違反という軽微な犯罪に過ぎない,②直近の二つの罷免事例は禁固刑以上が問題とされたものであるのに対し,本件は罰金刑のケースである,③迷惑防止条例違反に問われた裁判官で訴追委員会に訴追を受けていない過去の事例がある,④弁護士の同種事案における弁護士会の懲戒事例と比較して罷免は重すぎる,などの主張を展開し,罷免の回避を求めていましたが,判決理由では,いずれの論拠も退けられました。

③は,おそらく,平成13年の神戸地裁所長の電車内での痴漢事件を指しているのだと思われますが,判決理由では,「事案が異なる」とあっさり触れられただけでした。どのように異なるのか,もっと詳細に述べてほしかった気がします。ただ,直接(身体に触れること)と間接(撮影すること)を対比させて,間接だから被害者に対する人権侵害が軽微とは言えないし,撮影された媒体は広く拡散する可能性があるという点には,触れておりました。

裁判長は,最後に,被訴追者に対して,「人格を磨きなおして社会人として復帰してほしい。」と告げたのが印象的でした。

判決公判は,約40分で終了。弾劾裁判は一審限りですので,言い渡し即判決確定です。これにより,華井判事補は罷免されました。  また,検察庁法,弁護士法は,それぞれ,弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた者を検察官・弁護士の欠格事由と定めていますので,罷免の裁判により,いわゆる法曹資格が失われたことになります。

ただし,裁判官弾劾法には,資格回復の裁判という規定があり,罷免の裁判の宣告の日から五年を経過し相当とする理由があるときは,資格回復の裁判がなされうるとされています。

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(hy)

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