NHK受信契約最高裁判決

2017-12-11

平成29年12月6日,NHKの受信契約についての最高裁大法廷判決が言い渡されました。報道でも大きく取り上げられました。

私は,かつて,在日米軍が日米地位協定を理由にNHKの受領料を払っていないというニュースに関し,短いコメント文を書いたことがあるのですが,それを読まれた方々から,「NHKの受信契約は拒否できないのか?」と相談を受けたこともあったので,今回の大法廷判決の内容についてはとても興味がありました。

問題となるのは,放送法64条1項で,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定されています。「協会」というのは,日本放送協会,つまりNHKのことです。「受信設備」というのは,ようするにテレビのことですね。
この規定は,「受信設備を設置した者」と規定しており,「受信している者」と規定していないところが,一つのミソですね。
そして,そのような者は,「受信についての契約をしなければならない。」と規定しています。
この「契約をしなければならない。」とは,どういう意味なのでしょうか。

この点,最高裁判決の多数意見は,「受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定である。」と述べています。
多数意見は14名の裁判官,反対意見(受信契約の締結義務は判決により強制できない。)は1名の裁判官です。

では,テレビ設置者がNHKとの契約に応じない場合,どの時点で契約が(強制的に)成立するのでしょうか。

NHK側は,NHKによる受信契約の申込がテレビ設置者に到達した時点で契約が成立すると,主位的請求で主張していました。
しかし,多数意見は,「任意に受信契約を締結しない者との間においても,受信契約の成立には双方の意思表示の合致が必要」とし,NHKからの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には,NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め,その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当であると判示しました。

民法414条2項ただし書きは,履行の強制に関し,「ただし,法律行為を目的とする債務については,裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。」と規定しています。そして,民事執行法174条1項は,意思表示の擬制に関し,「意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し(中略)たときは,債務者は,その確定(中略)の時に意思表示をしたものとみなす。」と規定しています。

最高裁の多数意見は,これら民法,民事執行法の規定により,受信契約の強制が実現されると判断していることになります。
つまり,NHK勝訴の判決が確定した時,テレビ設置者はNHKの契約の申込を「承諾」したこととみなされ,この時点でNHKとテレビ設置者との間に申込・承諾という意思表示の合致があり,受信契約が成立するということです。

そうすると,次に,テレビ設置者は,いつの時点から(いつの時点の分の)受信料を支払わなければならないかが問題となります。

判決が確定したときに契約が成立するので,その月以降の分について受信料支払いが問題となるようにも思えます。
しかし,多数意見は,「受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する」と判示しています。
多数意見のロジックによると,例えば,ある年の1月にテレビを購入し,部屋に設置したが,NHKとの契約を拒否し続け,NHKから裁判を提起され,その年の10月にNHK勝訴の判決が確定した場合,テレビを設置した1月以降の分の受信料支払い義務が発生するということになります。
契約の効力が遡っているようにも感じられますが,この点は,補足意見によると,契約の効力が遡るのではなく,受信設備の設置の時(上記の例ではテレビを部屋に置いた1月)からの受信料を支払う義務を負うという内容の契約が,意思表示の合致の日(上記の例では判決が確定した10月)に成立するのであると説明されています。

このような多数意見の考え方には批判もあり得ます。
補足意見や反対意見に指摘があるように,放送法自体には,受信契約の内容が何ら具体的に規定されていません。
どういう契約内容なのかについては,法律ではなく,NHKの策定する「放送受信規約」というものにより定められています。
そこでは,テレビが設置される場所が住居である場合,「放送受信契約は,世帯ごとに行うものとする。」と定められています。1世帯で複数住居なら,住居ごとが単位になるとのことです。また,同一世帯の1の住居にテレビが何台あっても,契約は1,受信料も1ということのようです。

個別的な意思表示の合致によって契約が成立するとしながら,その契約単位は世帯ごとというのはどういうことでしょうか。同一世帯に複数人がいるばあい,誰が契約当事者になるのでしょうか。

なお,今回の判決は,受信料債務の消滅時効についても言及しています。受信料債務が5年の時効にかかるということは以前から判例があるのですが,その起算点はいつかという問題です。
多数意見は,「受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(受信契約成立後に履行期が到来するものを除く。)の消滅時効は,受信契約成立時から進行する。」と判示しています。

この考え方によると,テレビを設置しながらNHKに受信料を支払っていない人のうち,NHKと受信契約は締結したが支払いをしていない人の場合には時効消滅する余地はあるが,NHKと受信契約をせず支払いをしていない人の場合には時効消滅する余地がないことになります。
この点,多数意見は,「不均衡であるようにも見える。」が「やむを得ない」としています。

最後に,受信契約の契約率を示しておきます。NHKが推計し公表するところによれば,受信契約の契約率は,平成28年度末において約8割であるとのことです。

 

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(hy)

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