Archive for the ‘ブログ’ Category

内閣法制局の長官人事

2013-08-05

先週の新聞で,内閣法制局長官に,内閣法制局の勤務経験のない小松一郎・駐仏大使が起用されることになったとのニュースが報じられていました。山本庸幸現長官は最高裁判事に就任予定とのことでした。

この報道には正直びっくりしました。歴代の長官は,内閣法制次長(なぜか,法制「局」次長とは呼ばれません。)がそのまま就任するのが常例だからです。

この内閣法制局,一般的にはあまりなじみのない役所かと思います。内閣法制局は,外務省のような「省」ではなく,内閣に設置される官庁であり,主任の大臣はあくまで内閣総理大臣であって,内閣法制局長官は大臣ではありません。

しかし,新内閣が組閣されるにあたり,新聞などでは各省大臣の氏名や経歴等が紹介されますが,大臣でもないのに,内閣法制局長官だけは,内閣の一員として紹介されるのです。そして,閣議にも出席します。極めて異例の存在なわけです。

この内閣法制局,どのような官庁かというと,一言でいえば,日本国の立法の中枢を担う官庁です。このような表現をすると,たくさんの職印を要しているのだろうという印象を持ちますが,そうではありません。極めて少数精鋭の組織です。

内閣法制局は,長官1名,次長1名のもと,四つの部と長官総務室からなり(四部一室体制),各部には部長が,長官総務室には総務主幹がおかれます。そして,各部には参事官が,その下には事務官が置かれます。

この参事官の定員ですが,法令上,兼職者を除き,各部を通じ,24名を超えることができないとされています。たったこれだけの数です。

内閣法制局の仕事は,大きく分けると,閣議に附される法律案,政令案,条例案を審査する審査事務と,法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べる意見事務に分かれます。

内閣が国会に提出する法律案は,まずは所管の各省の職員が原案を作成するわけですが,それを担当の参事官のところに持ち込みます。参事官は,あらゆる観点から,持ち込まれた原案を審査します。参事官のハードルが極めて高いということは,原案作成の経験のある各省の職員であれば,誰もが痛切に感じていることでしょう。私も経験がありますが,内閣法制局の審査は完璧であることが求められます。「無謬性」とも言い換えることができるでしょう。

では,どのような人がこの参事官となることができるかというと,これもまた異例の人事システムが確立しています。各省庁と異なり,国家公務員採用総合職試験を合格した新卒者が直接内閣法制局参事官に採用されることはありません。参事官は,各省庁からの出向者で占められます。

各省庁から出向した参事官は,5年ほど内閣法制局で勤務し,また本省に戻りますが,戻らずにそのまま内閣法制局に残る者もいます。その中から総務主幹が選ばれ,各部の部長となり,次長となり,長官となるというのが昇進の流れです。

参事官は少数精鋭で,しかも,各省庁はエース級を送り込むということですので,内閣法制局は超エリート集団ということができます。ここでは説明しませんが,各省庁のいずれもが参事官を送り込めるわけではなく,参事官を送り込める省庁は事実上限定されています。また,全ての参事官が総務主任以降の幹部になれるわけではなく,出身省庁により,幹部になれる参事官とそうでない参事官がいるのです。

このように,官庁としての存在自体も,その人事システムも特殊な内閣法制局,その長官人事において,前例を踏襲しないというニュースが報じられたので,びっくりした次第です。

報道によると,いわゆる集団的自衛権の解釈の見直しがその背後にあるようです。上で紹介した,内閣法制局の仕事の「意見事務」にかかわる問題です。

この集団的自衛権の解釈問題は,以前このブログでも触れたことがあります。
http://bigcircle.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-57cf.html

そのブログの末尾で,私は,「…いままで見解を堅持してきた,あの「内閣の法律顧問」たる内閣法制局が解釈の変更に応じるのか,法解釈論的にも非常に興味があります。」と書きました。しかし,まさか,内閣法制局の長官人事に手を付けてくるとは思いませんでした。ニュースで報じられているとおり,新長官が集団的自衛権の解釈見直し派であるとした場合,組織としての「内閣法制局」はどう対応するのでしょうか。これまた,非常に興味がありますね。

 

http://yamato-law-accounting.com/

(hy)

 

憲法,契約,租税と学校教育

2013-05-20

夏の参議院選挙は,ネット選挙解禁という点においても非常に注目度が高いわけですが,各党が憲法改正についてどのような立場をとるかという点についてもいろいろ報じられていて,興味深いところです。

憲法96条の改正要件についても,今回各種報道により,一般の人々にもなじみになったように思いますが,そもそも,憲法の内容,とりわけ手続要件については,中学校や高校の教育現場では,なかなか突っ込んで教えられる機会がないように思います。個人的には,高校の「政治・経済」の授業で,聞いたような,聞かなかったような…というあいまいな記憶しかありません。

契約については,憲法以上に,中学校・高校で教えられた記憶がありません。しかし,契約はどのような場合成立するのか,契約が成立するとどのような拘束があるのか,成立した契約から逃れられる場合があるのかなど,最低限のことは,中学校・高校において,教えられるべき重要な事項であると思います。

なぜ,今回,憲法,法律と学校教育について話題にしているかというと,先日,国税庁が教科書編集者を対象とした租税教育説明会を行ったというニュースに接したからです。

これは,文部科学省と一般社団法人教科書協会の協力を得て,この度初めて開催されたとのこと。説明会には,出版社10社から,中学・高校の教科書を担当している編集者などがそれぞれ出席したとのことです。

租税教育については,平成23年度税制改正大綱において,「租税教育の充実」が閣議決定され,いわゆる,中央租税教育推進協議会が発足していますが,具体的に,教科書編集者を相手として国税庁が教育説明会を行うということは,なかなか画期的なことだと思いました。

たとえば,学校教科書において,「タックス☆スペースUENO」(みなさん,ご存知ですか?)が紹介されていたとしたら,学校の先生としても,「課外学習で利用してみるか。」ということにつながるのではないかと思います。

公権力の行使を制約し国民の自由を保障する憲法,私人間の基本的な約束である契約,そして,国家・公共団体の運営・財政にとって必要不可欠な租税,いずれも,社会の基本的な約束事として,学校教育においてもぜひ取り上げてほしいと思います。

 

http://yamato-law-accounting.com/

(hy)

領収書等を作成する学校・学習塾は大変?

2013-04-22

 第3回大井陸上競技場スポーツの森ロードレースご参加の皆様,お疲れさまでした。風が強かったですねー。レースの後,タオルで顔を拭うと,砂埃で真っ黒けに。私は目標タイムに届きませんでしたが,みなさん速くて,レベルの高い大会だなーと思いました。10キロ一般男子の1位は31分台! 驚異的なスピードですね。

さて,平成25年度税制改正では,教育資金一括贈与非課税制度が創設されました。

これは,贈与を受ける側の直系尊属に当たる父母・祖父母が直系卑属である子や孫のために,子・孫名義の金融機関の口座等に教育資金を一括して拠出し,その中から子・孫の学校などに直接支払うものは,1500万円まで贈与税が非課税となり,学校以外の者に直接支払うものは1500万円の非課税枠のうち500万円まで贈与税が非課税となるというものです。

この教育資金一括贈与非課税制度については,このブログでも以前取り上げましたが,そのときの予想どおり,各信託銀行などが教育資金を取り込むべく,新商品を発売しているようです。

この制度の恩恵を受けるためには,「教育資金の範囲」が問題となり,また,学校等へ直接支払ったか否か,それをどう立証するかが具体的には問題となりますが,それらに関して,文部科学省のHPでは,「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について」という記事が公表されており,参考になります。

まず,学校等の領収書のある教育費は,1500万円まで贈与税非課税となりますが,この「学校等」には,学校教育法上の幼稚園,小学校,中学校,高等学校,大学,大学院のみならず,保育所,保育所に類する施設,認定こども園なども含まれます。また,国際的な認証機関に認証されたインターナショナルスクールも含まれるとされています。

そして,教育資金の範囲は,入学金,授業料,入園料,保育料,施設設備費,教育充実費,修学旅行・遠足費などが挙げられるとされていますが,学校等に支払ったことが領収書等で確認できる場合のみが1500万円までの非課税枠の対象になるとされています。

そうすると,学校等で使用する教科書代や学用品代,修学旅行代,学校給食費などであっても,学校に支払うものではなく,業者に支払うものであれば,1500万円までの非課税枠の対象にはならないことになります。学校の別,あるいは国公立・私立の別などで,これらの扱いは区々に分かれてくることになりそうですね。

ただし,学校等における教育に伴う必要な費用で,学生等の全部または大部分が支払うべきものと当該学校等が認めたものは,500万円までの非課税枠の対象となるとされています。

この場合には,領収書等に加え,学校等が認めたものであるとわかるものを金融機関に提出する必要があるとされており,具体的な方法は近日中に文科省のHPに掲載予定とされています。

文科省の指定するフォーマットに従った書面を金融機関に提出しないと非課税の恩恵が受けられないので,学校側も間違いのないようにきちんと書面を発行しなければなりませんね。学校の事務負担がものすごく増えるような気がします。

他方で,学校等以外に直接支払うものであっても,学習塾・家庭教師・そろばんなどの学習活動・指導の対価や,スイミングスクール・野球チームなどのスポーツ活動の指導の対価,ピアノ教室・バレエ教室など文化芸術活動の指導の対価,習字・茶道など教養の向上のための活動の指導の対価,あるいはこれらの活動で使用する物品の費用で,指導者名で領収書の出るものについては,500万円までの非課税枠の対象になるとされています。

ただし,これら学習活動,スポーツ活動,文化芸術活動,教養の向上のための活動も,いずれも,教育のために支払われるものとして社会通念上相当と認められるものに限るという制約がつけられています。

なお,学校等以外への支払も,それらは直接行われるものに限られるので,例えば,塾のテキストを一般書店で購入したり,野球チームで使うグラブをスポーツ用品店で購入したような場合は,対象とならないことになります。

加えて,上記の費用の支払については,領収書等で確認することになるところ,領収書には,支払日付,金額,支払者,支払先の氏名又は名称及び住所又は所在地,摘要(○月分○○料として(○回又は○時間))が明らかになっている必要があるとされています。

塾や各種習い事教室,スポーツ教室も,文科省のフォーマットに従って領収書を出さねばならず,大変なことになりそうですね。

http://yamato-law-accounting.com/

(hy)

裁判官弾劾裁判所公判傍聴記

2013-04-11

昨日,裁判官弾劾裁判所の罷免訴追事件(平成24年(訴)第1号)の第2回公判(判決公判)を傍聴してきました。弾劾裁判所の事件は極めて少ないので,貴重な経験になるかと思い,傍聴してきた次第です。

事件の内容については,すでに,多数報道されているので,ご存知の方が多いと思います。大阪地裁の判事補が出勤途中の電車内で,女性のスカートの中を携帯電話で撮影し,いわゆる迷惑防止条例違反容疑で現行犯逮捕され,大阪簡裁で罰金50万円の刑を受けたというものです。

憲法64条1項は,「国会は,罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため,両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。」と規定しています。憲法上,高度な身分保障が認められる裁判官には,懲戒免職といった制度はありません。憲法78条本文は,「裁判官は,裁判により,心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては,公の弾劾によらなければ罷免されない。」と規定しています。この,「公の弾劾」にあたるのが,国会による弾劾裁判ということになります。

裁判官弾劾法は,「職務の内外を問わず,裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき。」を罷免事由として挙げています。したがって,上記の盗撮行為が「非行」に該当するか否かが弾劾裁判所により審理され,昨日判決が出たというわけです。

弾劾裁判所の公判の傍聴も,裁判所の事件の傍聴と同じように簡単にできるのかと考えておりましたが,ずいぶん様相は違っておりました。まず,傍聴するためには,事前にメールで希望を出し,抽選に当たる必要があります。
当日は,弾劾裁判所に赴き(参議院第二別館南棟です。),抽選に当たった旨を告げ,身分証明書を見せ,初めて傍聴券が渡されます。首からかけろと指示されました。そして,カバンの中身のチェックと身体のチェックをうけ(空港のあれと同じです。),クリアすると,やっと建物内に入れます。
建物内に入っても,自由な行動は許されず,傍聴人8人ごとに係員によりエレベーター内に誘導され,9階の法廷まで行きます。そこで,貴重品を除いて鞄を預け,法廷の傍聴席にはいれます。トイレ等の用事でいったん傍聴席から退出するときは,いちいち係員に告げる必要がありました。一般の裁判の傍聴と比べ,ずいぶん厳重です。

法廷の感じは,最高裁の大法廷をうーんと小さくした感じです。裁判官(正式には裁判員というようです。)は14名。傍聴席から向かって右側に検察官役の訴追委員の席があり,左側が弁護人席になっています。傍聴席は,左右に分かれ,左側はプレス専用で,椅子の背には,「NHK」とか「○○テレビ」とか一席ごとに記載されたカバーがかかっていました。我々一般傍聴人は右側の席へ誘導されました。

判決公判は14時30分開始でしたが,一般傍聴人が席に誘導されたのが13時20分頃。開始までたっぷり1時間待たされました。職員も,「まだたっぷり時間があります。」と告げていました。普段読んだことのない裁判官弾劾法のコピーを持参していたので,それを読んで時間をつぶそうとしましたが,わずか44か条の法律なので,すぐに読み終え,ついうとうとと…。

裁判官弾劾法には,「免官の留保」という規定があって,「罷免の訴追を受けた裁判官は,本人が免官を願い出た場合でも,弾劾裁判所の終局判決があるまでは,その免官を行う権限を有するものにおいてこれを免ずることができない。」とされています。今回の大阪地裁の判事補も,免官を願い出たとニュースで報じられていましたが,最高裁はこの規定により留保したのでしょう。

14時20分過ぎに,検察官役の訴追委員である国会議員7名が入ってきました。その後ろから,別の3名が入ってきて,訴追委員の後ろの席に座りました。私の見間違いでなければ,うち一人は裁判官のバッジをつけていたような気がしました。最高裁の関係者なのでしょうか。この事件は,最高裁が訴追請求した事件ですが,そうであっても,訴追委員の後ろに最高裁関係者が座るのは,少々奇妙に感じました。

弁護人5名が入ったあと,しばらくして,裁判員14名が入場。プレスによる写真撮影が終了したのち,被訴追者の華井判事補が入ってきました。

14時30分,裁判長の谷川参議院議員が平成24年(訴)第1号罷免訴追事件第2回公判の開始を宣言しました。

「被訴追者は前へ」と促したのち,判決の宣告が始まりました。

「主文,被訴追者を罷免する。」

被訴追者の表情は,私の位置からはうかがい知ることはできません。

理由は長くなるので被訴追者に着席を促した後で,谷川裁判長の朗読が始まりました。

判決理由の中では,携帯電話による盗撮行為が約1年半にわたって20回程度なされていたことが示されていました。しかも,静止画を撮影するとシャッター音でばれてしまうので,事前に動画撮影のスイッチを入れ,女性に近づいて撮影し,撮影の際にはライトの部分を指で押さえて撮影が発覚しないようにしていたということにも触れられていました。

その上で,裁判官は,国民から信頼され尊敬を受けるべき存在であり,裁判官としての地位自体に内在する倫理規範として,そのような国民の信頼と尊敬を保持すべき義務が存在するのであって,その義務に違反することが,裁判官弾劾法が罷免事由として規定する「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」に該当すると,非行の異議についての一般論を述べました。

そして,本件の盗撮行為は,「非行」に該当し,罷免事由に当たると結論付けました。

本件で,弁護人は,①本件の盗撮行為は条例違反という軽微な犯罪に過ぎない,②直近の二つの罷免事例は禁固刑以上が問題とされたものであるのに対し,本件は罰金刑のケースである,③迷惑防止条例違反に問われた裁判官で訴追委員会に訴追を受けていない過去の事例がある,④弁護士の同種事案における弁護士会の懲戒事例と比較して罷免は重すぎる,などの主張を展開し,罷免の回避を求めていましたが,判決理由では,いずれの論拠も退けられました。

③は,おそらく,平成13年の神戸地裁所長の電車内での痴漢事件を指しているのだと思われますが,判決理由では,「事案が異なる」とあっさり触れられただけでした。どのように異なるのか,もっと詳細に述べてほしかった気がします。ただ,直接(身体に触れること)と間接(撮影すること)を対比させて,間接だから被害者に対する人権侵害が軽微とは言えないし,撮影された媒体は広く拡散する可能性があるという点には,触れておりました。

裁判長は,最後に,被訴追者に対して,「人格を磨きなおして社会人として復帰してほしい。」と告げたのが印象的でした。

判決公判は,約40分で終了。弾劾裁判は一審限りですので,言い渡し即判決確定です。これにより,華井判事補は罷免されました。  また,検察庁法,弁護士法は,それぞれ,弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた者を検察官・弁護士の欠格事由と定めていますので,罷免の裁判により,いわゆる法曹資格が失われたことになります。

ただし,裁判官弾劾法には,資格回復の裁判という規定があり,罷免の裁判の宣告の日から五年を経過し相当とする理由があるときは,資格回復の裁判がなされうるとされています。

http://yamato-law-accounting.com/

(hy)

面会交流と間接強制

2013-04-02

面会交流と間接強制に関する三件の許可抗告事件について,最高裁第一小法廷は,3月28日,それぞれ決定を下したとの報道が昨日の新聞によりなされていました。
結論としては,一定の場合に,審判又は調停調書に基づき,子を監護している親(監護親)に対し,間接強制決定をすることができる場合があるというものです。

夫婦が離婚する場合や,離婚することなく別居し,夫婦のいずれか一方が子どもを監護養育している場合,親権者とならなかった親や子どもを監護していない親(非監護親)が子どもと会うことを面会交流といいます。

この面会交流,かつては,「面接交渉」などという表現が用いられることが多かったと思いますが,平成23年の民法改正で,766条に父母と子どもとの面会およびその他の交流について規定がなされたことから,現在では面会交流という表現が一般的になりました。

離婚調停や審判においては,監護親が非監護親に対して,子どもと面会交流をすることを許さなければならないという趣旨の条項が定められる場合があります。例えば次のようなものです。

「相手方は,申立人に対し,申立人が当事者間の長男と,次のとおり面会交流をすることを認める。
1 原則として月1回程度
2 夏休み及び冬休みの期間中は,それぞれ1泊以上の宿泊を伴う面会交流とする。
3 具体的な面会交流の日時,方法等については,当事者双方が子の福祉を慎重に考慮して定めるものとする。」

問題は,このような条項が一方当事者により遵守されず,相手方当事者が子どもに会うことができない場合,裁判所に対し,面会交流をすることを許さなければならないと命ずるとともに,その義務を履行しないときは一定の金員を支払うよう命ずる間接強制決定を求める申し立てをすることができるかということです。

この点,今回の最高裁決定のうち,調停調書に基づく間接強制が問題とされた事件は,一般論としては,次のように述べました(なお,今回の最高裁決定は一件が調停,二件が審判に関するものでした。)。

「調停調書に面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえるときは,間接強制を許さない旨の合意が存在するなどの特段の事情がない限り,上記調停調書に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。」

その上で,最高裁は,一件については,間接強制を認めましたが,他の二件については,面会交流の頻度や時間が必ずしも特定されていないことを理由に,あるいは,子の引渡しの方法がなんら定められていないことを理由に,それぞれ間接強制を認めませんでした。

最高裁は,監護親のなすべき給付義務の内容が特定されているか否かという観点から事件を処理しました。面会交流は,通常,①監護親が非監護親に子どもを引き渡す,②非監護親が子どもと面会交流する,③非監護親が監護親に子どもを引き渡す,という手順を踏んでなされるものですから,間接強制が認められる条項にするためには,①②③について,それぞれ,日時(又は頻度)(②については時間)と場所を特定する必要があるということになると思われます。上述したような,具体的な日時・場所については当事者協議して定めるという趣旨の条項では,間接強制は認められないということになるでしょう。

そうであれば,給付義務の内容を特定すれば無事解決かというと,問題はそんな単純なものでなないように思われます。そもそも面会交流は,子の福祉・利益が最も優先して考慮されるべきであり,そのような観点からすれば,本来は柔軟に対応することができる条項に基づき実施されることが望ましいともいえるからです。

また,実務上は,面会交流をめぐり父母の主張や感情が激しく対立する事案が極めて多く,給付義務を特定できるほどの条項には当事者が合意しないというケースも考えられます。

いずれにしても,面会交流において間接強制が認められる準則が最高裁により示されたわけですから,今後は,間接強制を念頭におく当事者としては,給付義務が特定されているか否か,この判例を分析ししっかり検討する必要があるということでしょう。

逆に,調停のケースに関し,最高裁が特段の事情として言及していますが,間接強制をしないという当事者合意も,有効ということになるのだと思います。

http://yamato-law-accounting.com/

(hy)

金融円滑化法の終了と経営革新等支援機関

2013-03-13

平成21年12月4日に施行された,中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(いわゆる「金融円滑化法」)は,その附則2条1項により,平成25年3月31日限り,その効力を失うとされています。

 

金融円滑化法は,中小企業者等に対する金融の円滑化を図るために必要な臨時の措置を定めることを目的として制定されました。

 

具体的には,「金融機関は,中小企業者に対する信用供与については,当該中小企業者の特性及びその事業の状況を勘案しつつ,できる限り,柔軟にこれを行うよう努めるものとする。」(3条)と規定し,また,

 

「金融機関は,当該金融機関に対して事業資金の貸付け…に係る債務を有する中小企業者…であって,当該債務の弁済に支障を生じており,又は生ずるおそれのあるものから当該債務の弁済に係る負担の軽減の申込みがあった場合には,当該中小企業者の事業についての改善又は再生の可能性その他の状況を勘案しつつ,できる限り,当該貸付けの条件の変更,旧債の借換え,…その他の当該債務の弁済に係る負担の軽減に資する措置をとるよう努めるものとする。」と定められていました。

 

平成24年7月に発表された金融庁の資料(「最近の金融行政について(金融円滑化法の出口戦略等)」によれば,金融円滑化法施行後,平成24年3月末時点で,貸付条件の変更の申し出に対して金融機関は9割強について応諾しているとして,金融円滑化法の下で,条件変更の取り組みはほぼ定着していると述べています。

 

他方で,金融庁のこの資料は,貸付条件の再変更等が増加しており,貸付条件の変更等を受けながら経営改善計画が策定されない中小企業者も存在しているという問題点も指摘しています。

 

そのような状況の下で,金融円滑化法は当初の予定から延長され,今月末に失効することになったわけですが,併行して,外部機関や関係者の協力を得つつ,中小企業者等の事業再生の支援に向けた総合的な出口戦略も講じられました。

 

その一つが,中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律の改正を含む一連の法改正です(以下,「中小企業支援法」と総称します。)。

 

中小企業支援法の狙いの一つは,中小企業支援事業の担い手を多様化・多角化し,中小企業に対してより専門性の高い支援事業を実現するという点にあります。

 

具体的には,中小企業の経営状況の分析,事業計画の策定・実施に係る指導・助言を行う者として,経営革新等支援機関を主務大臣が認定し,中小企業者に対する支援措置を行わせるというものです。

 

平成25年2月時点で,金融機関やNPO法人,民間コンサルティング企業や商工会,商工会議所,各種士業など5000以上の経営革新等支援機関が認定されており,当事務所所属弁護士,公認会計士・税理士も認定を受けました。

 

では,中小企業の経営者にとって,具体的にはどのように認定経営革新等支援機関を利用すればよいでしょうか。

 

例えば,一例ですが,平成25年度税制改正大綱に商業,サービス業,農林水産業を営む中小企業者等に対する設備投資減税が盛り込まれました。

 

これは,1台60万円以上の建物付属設備又は1台30万円以上の器具・備品を取得した場合,取得価格の30%の特別償却又は7%の税額控除を受けられるというもので,適用期間は平成25年4月1日から27年3月31日までとされています。

 

この設備投資減税制度の適用を受けるためには,原則として経営革新等支援機関等の助言が必要となります。

 

と,こんな感じで,経営革新等支援機関を利用するメリットはあるわけですね。最後は,ちょっと,当事務所の宣伝になってしまいました。

 

http://yamato-law-accounting.com/

(hy)

民法(債権関係)の改正に関する中間試案

2013-02-27

法制審議会民法(債権関係)部会が,民法(債権関係)の改正に関する中間試案を取りまとめたとのニュースが,昨日,今日と報じられました。新聞各紙のみならず,NHKの手話ニュースなどテレビニュースでも報じられていましたので,関心の高さというものがうかがえました。

民法(債権関係)の改正については,法制審議会において,3つのステージで議論が勧められています。第1ステージは,論点整理ということで,一昨年の5月に中間的な論点整理が公表されています。

第2ステージは,中間試案に向けての審議ということで,昨日,中間試案が出されたわけです。

今後は,中間試案が,パブリックコメント手続きにかけられ,それを踏まえて,第3ステージの改正要綱案の取りまとめに向けての審議が始まります。

というわけで,改正作業はまだ,第2ステージを終わった段階にすぎず,この段階で中間試案の細かい内容をあれこれつついても,法務省幹部あたりからは,「審議・議論はまだまだ続くんだよ!」とお叱りを受けるかもしれませんが,ニュースなどでも報じられていることですし,報道で取り上げられていた各論点について,いくつかふれてみたいと思います。

まず,中間試案では,職業別の短期消滅時効の廃止という提言をしています。

一般に,債権は10年の消滅時効にかかる,商事債権なら5年の時効にかかるということは,比較的広く知られていることかと思います。

民法は,この一般的な時効期間の特則として,職業別の細かい区分に基づき,3年,2年,1年という短期の時効期間を定めています。

例えば,弁護士や公証人の報酬債権は2年の時効で消滅します。

医師や薬剤師の診療・調剤に関する債権は3年で時効消滅します。

工事の設計・施工・管理業者の債権も3年です。

生産者,卸売商,小売商が売却した産物・商品の代価に係る債権は2年の時効にかかります。

教育を行う者が生徒の教育について有する債権も2年です。

演芸を業とする者の報酬債権は1年。

運送賃も1年。

旅館,料理店,飲食店の種伯領・飲食料も1年です。

最後のやつは,「飲み屋のツケは1年で踏み倒せる。」とちまたでいわれていることの法的根拠ということですね。

これらの職業に関する債権が,なぜ,短期の消滅時効にかかるのか,それを合理的に説明することはできないでしょう。それに,適用範囲も文字どおり捉えるとかなり広いですね。「生産者,卸売商,小売商が売却した産物・商品の代価に係る債権は2年」という規定は一般の商取引のかなりの部分をカバーすると思われますので,「商事債権は5年の時効」と考えていたら,とんだ落とし穴にはまる可能性もあります。

というわけで,これら職業別短期消滅時効の規定は削除するというのが中間試案の考え方です。

次に,保証人保護の方策の拡充について,中間試案は引き続き検討することとしています。保証人が個人である場合,想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ,生活の破綻に追い込まれるようなケースを想定して,個人保証人を守るべきことが示されています。

具体的には,貸金等根保証契約や,債務者が事業者である貸金等債務を主債務とする保証契約であって,保証人が個人であるものについて,保証人が主たる債務者のいわゆる経営者であるものを除き,無効とするかどうかについて,引き続き検討するとされています。

中小企業などが金融機関や貸金業者から借入をする場合,代表者が個人保証をするというのが通例となっていますので,「いわゆる経営者であるものを除き」という点が,今後の審議の争点になるように思われます。貸す側,借りる側から,いろいろな意見が出されるでしょう。借りる側からしても,「経営者が個人保証するからこそ銀行は金を貸してくれるのであって,経営者の個人保証を法律で禁止したら,金を貸してくれなくなってしまうのではないか?」という疑問が提起されることも十分考えられます。

加えて,保証人保護の方策の拡充として,契約締結時の説明義務や情報提供義務を明記し,それを怠った場合は,保証人が保証契約を取消すことができるという制度についても,引き続き検討することとされています。

約款についても,多くの新聞がふれていました。中間試案では,約款に関する規定を民法に新たに創設することについて今後議論をすることとしています。

約款について,中間試案は,多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であると定義しています。例えば,運送約款など読むことなしに,私たちは日常,電車に乗ったりバスに乗ったりしています。しかし,私的自治の原則が支配する民法の世界では,当事者が合意していない契約条項が当事者を拘束するということは本来ないはずであって,なぜ読んでもいない約款に我々は拘束されるのかという点については,法律上明らかではありませんでした。そこで,中間試案では,個別の合意がなくても約款が契約内容となる根拠規定をもうけようとしています。

約款というのは,知らなくても内容に拘束されるという点では法律に似ています。しかしあくまで当事者の契約内容を構成するものなので,「合意」という要素を全く無視しては,約款の拘束力を説明できないでしょう。いくら民法に,「約款は拘束力がある。」と規定したところで,それはあくまで形式論にすぎず,なぜ約款に拘束されるのかという実質的理由は解明されません。当事者が多数であることからくる画一的処理の要請と,内容が拘束される当事者にとって一方的に不利益ではないことが(例えば所轄官庁の許認可等により)公的に担保されているという,一種のパターナリズムによって私的自治が修正されているのだと考えるのが,一番の理由であると個人的には思いますが,学者によっては考え方はいろいろでしょう。

いずれにせよ,私的自治の支配する民法の中に約款論を織り込むことについては,十分な議論が尽くされるべきでしょう。

中間試案の取りまとめにより,民法(債権関係)の改正作業は第3ステージに入るわけですが,その前に,この中間試案に対して,どのような意見が国民から寄せられるのか,興味がありますね。

http://yamato-law-accounting.com/

(hy)

Copyright(c) 2012 やまと法律会計事務所 All Rights Reserved.